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六月から、間違いを認めた当時のH総理が財政政策のUターンを決断、景気の安定へ向かって動き出すが、すでに開いてしまった傷口はあまりにも大きく、その後の治療費(=財政赤字)は財政再建に踏み切る前の一九九六年の二二兆円を大幅に上回り、一九九九年には三七兆円まで拡大してしまった。
そして現状は、政府がなんとか赤字を三○兆円近辺に抑えようとしているところである。
もしもA世代が九七年に財政再建という間違った政策を採らなければ、B世代の累積財政赤字は少なく見積もっても現状より三○兆円は少なくなっていただろうし、景気も今よりずっと良かったはずである。
こうして見ると、財政赤字で造るものは、将来世代も使えるものでなければいけないというなかには、社会資本といったモノだけでなく、経済全体の健康も含まれることがわかる。
財政赤字があっても健康体の経済を引き継ぐのと、財政赤字は少なくても半身不随の経済を引き継ぐのでは、前者のほうがはるかに好ましい場合があるからである。
F大統領の「健全財政」という失政がもたらした大恐慌のなかで、あまりの貧困のために学校にも行けず職探しに走らなければならなくなった「将来世代」の若者の数はそれこそ数百万人にのぼるが、彼らはそれこそ一生の人生設計を狂わせられたも同然だった。
今の日本でもすでに三三八万人が失業しており、多くの家庭が大変厳しいやりくりを強いられている。
その結果、進学を断念せざるをえなくなった学生や、子供の教育費を削減しなければならなくなった家族も決して少なくないと思われる。
T経財相はことあるごとに「子供たちに借金を残してはいけない」と言うが、この一九三三年と一九九八年の二つの例が意味することは、(後世への負担が心配だから)財政赤字を減らそうとしても、経済状況がそれに見合うものでなければ、かえって財政赤字も景気も悪化し、後世への負担を拡大させてしまうということである。
もちろん、バランスシート不況にも陥っていない通常の経済で、景気の下支えを財政ですることは、拙著「良い財政赤字悪い財政赤字」でも指摘したように、クラウディング・アウトやインフレ問題を引き起こし、現世代にとっても将来世代にとっても百害あって一利なしである。
しかし現状のように、多くの企業がバランスシートの修復を急ぐべく、利益の最大化から債務の最小化に走り、それが合成の誤謬を引き起こし、経済全体が深刻な需要不足にある時は、財政をケチるほうがかえって将来への負担を大きなものにしてしまうのである。
学界の財政論議では、引き継がれる経済の健康度と世代間所得移転の問題が一緒に議論されることはほとんどない。
しかし、現実を見れば、国債やその相続問題を、現実の経済状況から切り離して議論することがいかに無意味であるかがわかる。
ところで、国債を税金で償還する際、国債保有者には償還金が入ってくるが、未保有者は税金をとられるだけで何も入ってこないので不公平だという指摘がある。
このような指摘をしている人たちは、自身を含め、自分たちの周りに国債を持っている人がいないため、国債はよほど金銭的に余裕のある金持ちだけが持っていると思い、そこへ一般納税者からの税金が向かうことは、所得分配上、不適切と考えているようだ。
しかし、彼らの周りに国債保有者がいないのは理由がある。
それは、彼らの周りに金持ちがいないからではなく、そもそも国債の九八%を保有しているのは郵貯を含む金融機関であり、個人が保有している国債は全体の二%しかないからだ。
その一方で、国民のほとんどが預金や年金、生命保険をこれらの金融機関に持っている。
ということは、間接的には国民全員が国債の保有者であるとも言える。
国民のなかで郵便貯金や銀行預金をまったく持っていない人はまずいないからである。
ところがその一方で、税負担ということになると「クロョン」と言われる構造的な不公平に加え、日本ではあまりにも課税最低水準が高いので、税金をほとんど払っていない国民も多数存在する。
しかし、税金を払っていないこれらの人々も、銀行預金や郵便貯金を持っているとまた、一部の財政再建至上主義者には、「国債は増税の先送りである」という固定観念が定着しているようだが、増税は歳出カットや借り替えなど、国債を償還する選択肢のなかの一つでしかない。
しかも、多くの場合、増税は最悪の選択肢である。
これは八○年代の米国で財政赤字が問題になった時に、ボルカー前FRB議長やグリーンスパン現FRB議長が、財政赤字削減は絶対に増税ではなく、歳出カットでやるべきだと言い続けてきたことにも表れている。
レーガンやサッチャーに代表される欧米の構造改革は、すべて、規制緩和や歳出カットを柱にした、小さな政府へ向けての改革だったのである。
しかも、将来増税するか、それとも支出を削減するかは、我々ではなく将来世代の人たちが決めるべきことであり、現世代の我々が決めることではない。
もしも将来の償還時点で、バラいうことは(間接的に)国債を保有している人たちの数は、税金を払っている人たちより多い可能性さえあるのである。
したがって、クロョンのロ・ヨン(六、四)部分に属する人たちや課税最低水準以下の人たちについては、通常の財政学で想定されている事態とまったく逆の不公平が発生しうることも注意すべきだろう。
不況は解消され、必要な社会インフラも全部そろっていれば、その時の世代は、当然増税より歳出カットを選ぶだろう。
その意味では、「国債は増税の先送りである」というのは、将来世代に対して大変失礼で倣慢な発言なのである。
どうしても増税しなくてはならない局面でも、拙著で述べた通り、増税には実は二種類あり、・国債償還用の増税は通常の増税と違い、国が資本市場に資金を供給する側に回ることになるので、金利を下げる効果がある。
この金利引き下げ効果は景気にとって大きなプラスであり、クリントンの九三年の増税も、まさにこの金利押し下げ効果を強調して国民に納得してもらったのであった。
また、国内の増税推進論者は、政治色の濃い一部の米国民主党系シンクタンクの話を引用し、このクリントンの増税こそがその後の米国財政収支の改善をもたらしたと主張しているが、アメリカ人の圧倒的多数は、増税ではなく、景気拡大こそ財政赤字削減の決め手であったと認識している。
それは、九三年当時の民主党の増税推進論者たちでさえ、その後の米国の財政収支が大幅な黒字になることを予測できなかったことを見ても、増税論ではなく景気論の方が正しかったことを示している。
こうして見ると、「財政赤字イコール世代間所得移転イコール増税」という固定観念に振り回されることが、いかに愚かなことであるかがわかる。
財政赤字の世代間所得移転がどのくらいかは、国債の譲渡方法に加え、同時に受け継がれた経済状況にも大きく左右されるのである。
ところで、本書で私は、「不良債権処理と財政再建は今の日本経済の緊急課題ではなく、ゆっくり時期を見計らってやるべき」という二点を強く主張しているが、これは両方とも日本の超低金利を根拠としている。
国債の消化がそんなに問題なら金利がこんなに低いはずはないし、銀行の不良債権が景気回復の制約要因ならこんなに金利が低いはずはないからだ。
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